# ちみもうりょう
ち
魑魅魍魎

種類:その他格言
魑魅魍魎の出自は、八百万の神々とまったく同じ住所である——敬えば神、忘れれば妖怪。その戸籍を一人で編纂し直した水木しげる先生と、境港のトップファンバッジ、そして実家の布団の横にいた白い顔のお婆さんの話。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)—— 辞書によれば、魑魅は山林の精気から生まれて人を迷わせる妖怪。 魍魎は山や水、木や石の精気から生まれて人をだます怪物。
要するに、自然のあるところ、どこにでも現れうる連中である。
私は年に三度ほど、鳥取の大山へ行く。 春は新緑、夏は避暑、秋は紅葉——そして、どの旅でも必ず、 境港の水木しげるロードへ足を延ばし、妖怪たちに会ってくる。
この記事の建て替えを思い立ったのも、 ちょうど大山行きの支度をしている最中である。 妖怪詣での道すがらの手直しなら、彼らも大目に見てくれるだろう。
日本人は古来、森羅万象に神が宿ると信じてきた。 山にも、水にも、木にも、石にも、先祖にも、伝承にも。 数え切れないから、八百万(やおよろず)の神と呼んだ。
ここで、魑魅魍魎の出自をもう一度見てほしい。 山林の精気、山や水、木や石の精気——
神々と、まったく同じ住所である。
つまり八百万の神と魑魅魍魎は、別の種族ではない。 同じ自然の気配を、人が敬って祀れば神になり、 怖れて遠ざければ妖怪になる。 民俗学者の柳田國男は「妖怪は神が零落した姿」と論じたが、 言い得て妙で、要は八百万の戸籍の、表と裏なのだ。
祀られなくなった神は、山へ帰って魑魅魍魎になる。 だとすれば彼らは、忘れられた側の神様たちである。 少し、扱いが気の毒になってくるではないか。
さて、忘れられた側の神様たちに、 名前と顔と性格を返した人がいる。
境港が生んだ漫画家、水木しげる先生である。
一反もめん、ぬりかべ、子泣き爺、ぬらりひょん—— なぜ現代の日本人が、これら古風な妖怪の名を諳んじられるのか。 先生が描き、語り、アニメになり、 妖怪たちの姿かたちから性分までを、 国民の記憶に刻み直してくれたからにほかならない。
伝承の中で消えかけていた魑魅魍魎の戸籍を、 たった一人で編纂し直した—— 私はそう思って、先生を敬愛している。
そして境港の水木しげるロードには、 先生の妖怪たちの銅像が約200体、通りにずらりと並んでいる。 夕暮れどきに歩くと、影が伸びて、実に良い塩梅に不穏で、圧巻である。
自慢をひとつ。 この記事の旧版を境港市のFacebookページでシェアしたところ、 熱心なフォロワーとして、境港市からトップファンバッジを授与された。 愛着のある街からの勲章である。額に入れたいくらい嬉しかった。
メインの絵は、私なりの魑魅魍魎である。
一枚目は、人の手の入らない森の奥。 花咲く木々の間から、大小の異形たちがこちらを覗いている。 魑魅魍魎は、こういう森ならどこにでも潜んでいる—— ただ、私たちの目に見えないだけだ。
二枚目は、その彼らの宴である。 食卓を囲み、ご馳走を並べ、賑やかにやっている。 森の恵みをうっかり食すと、願わない形で彼らが「ついてくる」 と言うが——ついてきた先で、案外こういう楽しい飯を 食っているのかもしれない、と思って描いた。
なお、わが15,000人の町の住民は人間ばかりではない。 この者たちのような、人ならざる住民も少々いる。 町内会としては、種族を問わず歓迎である。
さて、ここからは私見——というより、体験談である。
昔、実家で寝ていたときのことだ。 ふと横を見ると、そこに——
顔の大きな、白い顔のお婆さんが、横たわっていた。
一体、何だったのだろうか。
夢と言われれば、そうかもしれない。 だが私の記憶の中で、あれは今も「見た」の棚に仕舞われている。 説明は、つかないままにしておく。 魑魅魍魎は説明した瞬間に逃げていくものだし、 何より、説明がつかないおかげで、 私にはこの記事を書く資格が、一応あるのだ。
ところで、一癖も二癖もある人間が集まる場所を、 世間は「魑魅魍魎が蠢く」と形容する。
……心当たりが、なくはない。 どこの理事会とは、言わないが。
だが、妖怪の宴の絵を、もう一度見てほしい。 異形の者たちも、集まって同じ食卓を囲めば、 なんだか楽しそうな、ただの賑やかな隣人である。
魑魅魍魎が蠢く場所も、 うまく飯でも囲めれば、案外ああなるのかもしれない。 来月あたり、試してみるか——茶菓子くらいは、出そうと思う。
この夏も、大山の帰りに境港へ寄る。 銅像の妖怪たちに挨拶をして、トップファンの務めを果たしてくる。
そしていつか、あの通りのどこかで、 布団の横にいた白い顔のお婆さんの銅像に出会えたら—— そのときはまず、名前を聞いてみたい。
八百万の裏面の皆さん、今年もよろしく。
魑魅魍魎|八百万の神々の、戸籍の裏面


以下は、私が作品の参考として撮影した写真です。ただし、銅像オブジェの著作権の所在は不明ですので、これらの写真のダウンロードおよび使用はお控えください。
猫娘
ねずみ男の天敵のように振る舞います。
最近、ネコ耳を頭につけた若い女の子を街でよく見かけるのですが、猫娘なのでしょうか?
左上より
一つ目小僧(一から順と考えましたが...)/竹切り狸(今年もたくさん筍を買って煮たなぁ)/百目/貧乏神(仲良しです)/油すまし/輪入道/傘化け/小豆洗/川獺(リアルな日本在来種は絶滅)/つるべ落とし/べとべとさん/ろくろくび
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