先日、新作紹介でこう書いた。
「JAFに電話をかける女性の絵は、筆が自然と乗った。 一方、爽やかにドライブするだけの絵は、正直、地味である」
——その数日後、本人が実演する羽目になるとは、 さすがに予想していなかった。
今日、自家用車に乗ろうとして、異変に気づいた。
ドア開閉リモコンを操作しても、まったく反応がない。 イグニッションスイッチを押しても、無反応。 リモコン内蔵のキーを、初めて物理的に取り出し、 ドアを開けてエンジンをかけようとしても——動かない。
バッテリーが、上がっていた。
原因を考える前に、真っ先にチェックしたことがある。
室内灯は、オフになっていた。
これは無罪である。 「乗り降りの際に電気をつけっぱなしにしていた」という、 一番よくある恥ずかしい原因ではない。
証拠は?の性分が、こういうときだけは役に立つ。 潔白を確認できたことだけは、せめてもの救いだった。
とはいえ、原因を考えても、車は動かない。 田舎暮らしにとって、車が使えないことは、ほぼ死活問題である。
幸い、歩いて5分ほどのところにガソリンスタンドがある。 30度を超える猛暑の中、てくてくと歩いて、救援を求めに行った。
程なく係の人が来てくれて、ジャンプスタートでエンジンがかかった。 ——ここまでは、良かった。
問題は、この後である。
支払いも兼ねて、車でそのガソリンスタンドまで移動し、 ガソリンを入れることにした。
セルフのスタンドである。 当然、マニュアル通りに「エンジンを止めて」給油する。
——お分かりだろう。 たった1分程度の走行では、バッテリーはろくに充電されない。 エンジンを止めた瞬間、車は再び、沈黙した。
もう一度、ジャンプスタートをお願いすることになった。
自分で「バカです」と言うしかない。 救援を呼んだ直後に、同じ失敗の種をもう一度蒔いたのだから。
さらに、悔やまれることがある。
実は少し前まで、ジャンプスタート機能付きの、 大容量のモバイルバッテリーを持っていた。
だが、日常的にスマホの充電用として使い回しているうちに、 本体が起動しなくなり、廃棄してしまった。
一度も、本来の目的で使うことのないまま、である。
備えていたはずのものが、便利に使われすぎて、 肝心なときには、もう手元になかった。
以前、「濡れぬ先の傘」ということわざの記事で、 こう書いたことがある。
「備えあれば憂いなし。憂いがなくなった瞬間が、一番危ない」
まさか、傘ではなくバッテリーで、 同じ教訓を、身をもって繰り返すとは思わなかった。
世の中には、こういうことが多い。 マーフィーの法則、というやつだろう。
最後に、今回の原因について。
おそらく、車を降りる際、エンジンを止めた後、 何かの拍子にイグニッションスイッチを軽く押してしまい、 電気系統がオンになったまま、車を離れてしまったのだと思う。
折しも、猛暑真っ盛りである。 エアコンがフル稼働の状態で放置されれば、 1時間もあれば、バッテリーは空になる。
ちょっとした不注意と、この時期特有の暑さが重なった、 実に単純な顛末だった。
先日、「爽やかにドライブする女性」の絵を紹介しながら、 「免許を持つ人の九割九分は、こちらの状態で運転している」 と書いた。
今日、私は残りの何分の一かに、 きっちり組み込まれることになった。
絵の中の彼女たちは、いつも涼しい顔で トラブルを乗り越えているが、 実際にやってみると、汗だくで、猛暑の中を歩き、 同じ失敗を二度も繰り返す羽目になる。
今度、あのシリーズにもう一枚追加するとしたら、 題名は、こうしたい。
「ジャンプスタートを二回もお願いする、間の抜けた男」
きっと、地味な絵よりは、ドラマがあるはずである。
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