# イラスト:夏空の下でソフトクリーム(コーンに乗ったアイスクリーム)をたべる若い女性
イラスト:夏空の下でソフトクリーム(コーンに乗ったアイスクリーム)をたべる若い女性
この連載は、イラストの販売を目的としている。 それなのに気づけば「売れなかった話」ばかり書いてきた。
佇む女性は売れなかった。 一人旅の女性も売れなかった。 七夕の女の子たちは、私のひらめき不足に付き合わせてしまった。
そろそろ営業として正しい話をしたい。
先日、あらためて販売データを集計してみたところ、 「夏空の下でソフトクリーム(コーンに乗ったアイスクリーム)を食べる若い女性」が、 私のギャラリーの売上トップ5に入っていた。
夏の売れ筋は他にもいくつか紹介してきたが、 彼女はその中でも堂々たる上位常連である。
なぜ売れるのか。 この連載を読んでくださっている方なら、もう答え合わせができるはずだ。
その一、動詞がある。 佇む女性には方向がなかった。 だが彼女は「食べて」いる。行動が明確で、意味が一瞬で伝わる。
その二、問いを投げない。 彼女はソフトクリームに夢中で、こちらに問いかけてこない。 「何を考えているのだろう?」と悩む余地がない。 考えていることは、どう見てもソフトクリームのことである。
その三、真昼の夏である。 「広告の夏は永遠に真昼」と、私は一人旅の女性の回で書いた。 夏空、白いソフトクリーム、鮮やかな色彩—— 彼女は広告の夏の文法に、完璧に沿っている。
売れなかった女性たちが落とした単位を、 彼女は一人で全部取っていたのだ。
データには、もうひとつ面白い事実があった。
このシリーズ、販売の9割が7月に集中している。
つまり彼女は、一年のうち7月だけ猛烈に働く。 梅雨明けと同時に出勤し、お盆が見える頃には店じまい。 実に潔い季節労働者である。
これはおそらく、用途がはっきりしているからだ。 夏のセール告知、冷菓のキャンペーン、熱中症対策の記事、観光案内—— 「暑い」と「涼」がぶつかる最前線の7月に、 涼を運ぶ図版として一斉に呼ばれるのだろう。
年中無休で働く「星空を眺める女性」が正社員だとすれば、 彼女は超売れっ子の夏季限定アルバイトだ。 働き方は違うが、どちらも立派に稼いでいる。
ここからは、少し正直な話をする。
ソフトクリームを食べる若い女性の絵には、 「涼しげ」だけでは説明しきれない、ちょっと魅惑的な何かがある。
考えてみれば、当然かもしれない。 夏の日差し、素直な笑顔、無防備な仕草。 「おいしい」に全力な人間の姿は、それだけで魅力的なのだ。
涼しさという実用と、ほんの少しの魅惑。 この絶妙な配合が、彼女の強さの正体ではないかと思っている。
ちなみに家内にこの分析を披露したところ、
「要するに、あなたが描きたかっただけでしょ」
と一刀両断された。 ……否定はしない。 だが今回に限っては、私の描きたいものと市場の需要が、奇跡的に一致したのだ。 これを世間では「実力」と呼んでほしい。
「ソフトクリーム」は和製英語 英語では soft serve(ソフトサーブ)と呼ぶのが一般的で、 「ソフトクリーム」で通じるのは日本くらいである。 海外で注文する際は、ご注意を。
7月3日は「ソフトクリームの日」 1951年7月3日、明治神宮外苑で開かれた米軍主催のカーニバルで ソフトクリームが販売されたのが、日本での普及の始まりとされている。 これにちなみ、7月3日は「ソフトクリームの日」となった。
——お気づきだろうか。 彼女の販売が集中する7月は、記念日から始まるソフトクリームの月でもある。 9割という数字には、ちゃんと星回りがあったのだ。
売れない女性たちの分析を重ねてきて、ようやく分かってきた。
売れる絵とは、 作者が惚れていて、意味が一瞬で伝わり、季節の最前線に立っている絵だ。
ソフトクリームの彼女は、それを涼しい顔でやってのけている。 こちらが何年も唸って辿り着いた理論を、 彼女は片手のコーンひとつで実践していたわけだ。
今年の7月も、彼女はどこかの広告やWebサイトで、 誰かに涼を届けているだろう。
私はその稼ぎに感謝しつつ、 売れない佇む女性たちの絵筆も、こっそり持ち続けようと思う。
営業はソフトクリームに任せた。 ロマンは、こちらで引き受ける。
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