これまで、車に関連する女性のイラストを、いくつも作ってきた。
洗車をしている女性。 ドライブ中に車が故障して、困っている女性。 事故やトラブルに見舞われて、うろたえている女性。
……並べてみると、我ながら気づく。 どれも、少しへそ曲がりな題材ばかりである。
もちろん、これは計算あってのことだ。 故障や事故は、保険や整備関連の記事で、 案外な需要がある。狙って作り、実際、それなりに売れた。
だが、そのせいで、大事なものが一つ、抜け落ちていた。
数えて、愕然とした。
洗車も、故障も、事故も、トラブルも、あるのに。
ただ普通に、爽やかにドライブしている女性の絵が、 一枚も、無かったのである。
考えてみれば、これほど基本的な需要もない。 自動車教習所のサイト、保険会社のパンフレット、 旅行記事の道中の一コマ—— 「何事もなく運転している人」は、実は一番使い勝手のいい題材だ。
それなのに、私のギャラリーには、 故障した車と困った顔ばかりが並び、 肝心の、平和な運転風景が、どこにも無かった。
盲点である。灯台下暗しである。 へそを曲げた絵ばかり量産して、 一番まっすぐな絵を、後回しにしていたらしい。
正直に理由を考えてみると、たぶんこうだ。
トラブルを描くほうが、単純に面白い。
困った表情、慌てた仕草、ハプニングの一場面—— 描いていて、ドラマがある分、筆が乗る。
一方、「普通に運転している女性」には、 事件も、表情の起伏も、特に無い。 絵として、地味である。
需要はあるのに、作り手の情熱が向きにくい。 これもまた、「惚れた絵は売れるとは限らないが、 惚れない絵は、そもそも描かれないこともある」という、 新しいパターンだったのかもしれない。
この分析を裏付ける証拠は、ギャラリーの中にすぐ見つかった。
以前作った、故障した車の前で JAFに電話をかけている女性の一枚—— ボンネットは開き、空には暗雲、電話を握る指先には焦り。 一枚で状況が完結する、なかなかいい絵だと自分でも思う。
描いていて、筆が自然と乗った記憶がある。 ドラマがある絵は、作り手にとっても、楽しいのだ。
というわけで、遅ればせながら、「自動車を運転する若い女性|爽やかで自然なドライブ風景の イラストポートレート」を、数点制作した。
窓を開けて、風を感じながら、 何のトラブルもなく、ただ気持ちよく運転している—— それだけの絵である。
正直に言うと、この絵、地味である。 JAFに電話をかける女性の絵と並べたら、 ドラマの量では、間違いなく負ける。 だが、免許を持つ人の九割九分は、 毎日こちらの状態で運転しているはずだ。
派手さはない。物語もない。 だが、これまでの欠けていたピースが、ようやく埋まった。
枯れ木も山の賑わい、という言葉があるが、 これは枯れ木どころか、 山にあって当然の、ごく普通の木である。 むしろ、無いほうがおかしかった。
正直に言うと、この絵、地味である。
JAFに電話をかける女性の絵と並べたら、
ドラマの量では、間違いなく負ける。
だが、免許を持つ人の九割九分は、
毎日こちらの状態で運転しているはずだ。
洗車、故障、事故、そして、ようやくの平常運転。
これで、車と女性というテーマの、ひととおりの陰影が揃った。 トラブルの合間に、平和な一コマが挟まると、 ギャラリー全体の座りも、少し良くなる気がする。
次にドライブの絵が必要になったとき、 選択肢が「困っている顔」しかない、 という事態は、もう起きないはずである。
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