# イラスト:髪をかきあげている(なでている)若い女性
イラスト:髪をかきあげている(なでている)若い女性
「売れるイラスト」と一口に言うが、その売れ方は一様ではない。
理想は、もちろんある。 万人に支持され、季節を問わず、こんこんと売れ続ける絵。 わが町ではソフトクリームの彼女が、その理想に一番近い。
季節にだけ働く者もいる。6月のハイビスカス、梅雨の傘。 年に5人の客を迎える「ふん!」の横丁もあれば、 一人も客の来ない、佇む女性たちの通りもある。
販売台帳を眺めていると、絵の数だけ売れ方があると分かる。 ——手が回らず、たいていは眺めるだけで終わるのだが。
それでも先日、台帳の中に、 どうしても素通りできない一件を見つけてしまった。
「髪をかきあげている(なでている)若い女性」
ふとした仕草の一瞬を捉えた、35点のシリーズである。
公開して、一年。 売れた日は——たった1日。
ここまでなら、よくある話だ。 だが台帳は、その一日について、信じがたい数字を記録していた。
31点。
35点のシリーズのうち31点が、その日のうちに売れたのである。
一年間、雨の一滴も降らなかった土地に、 一日だけ、豪雨が来た。 そして、それきり、また晴れ続けている。
これは、どういうことか。
31人の客が、示し合わせたように同じ日に一点ずつ買った—— とは、さすがに考えにくい。
おそらく、たった一人である。
誰かがある日、検索の海でこのシリーズに行き当たった。 そして、タッチか、テーマか、彼女たちの仕草の何かに感銘を受けて、 一点、また一点と、ほぼ丸ごと買っていったのだ。
35点中31点。 仕事で使う素材を選んだ、という買い方ではない。 必要なら、普通は数点で足りる。
31点というのは、気に入った作家の画集を、棚ごと買うような数字である。
ここで、連載の読者には申し上げねばならないことがある。
「髪をかきあげる女性」——この仕草を思い浮かべてほしい。 明確な用件があるわけではない。何かを訴えてもいない。 ふとした瞬間の、物語の予感だけがある。
そう。佇む女性たちの、姉妹である。
私の理論では、こういう絵は売れないはずだった。 意味が一瞬で伝わらない絵、問いを投げる絵は、 広告市場では選ばれない——と、散々書いてきた。
その理論は、たぶん今も正しい。 「広く」売れるためには。
だが台帳は、理論の外側にもう一つの売れ方があることを教えてくれた。
万人に伝わらなくても、 たった一人に深く刺されば、その人は一点では止まらない。 全部、欲しくなるのだ。
広く浅く愛される絵と、狭く深く愛される絵。 売れ方にも、やはり十人十色があったのである。
ただ、この話には、少し切ない仕組みがある。
ストックイラストの世界では、 作者は買い手が誰なのかを、知ることができない。
31点をまとめて連れて行ってくれたあなたが、 どこの国の、どんな人で、 彼女たちを何に使い、あるいは、ただ眺めているのか—— 私には、永遠に分からない。
台帳に残った一日分の数字だけが、 あなたが確かに存在したことの、唯一の証拠である。
だから、届くあてのない手紙を、ここに書いておくことにした。
あの日、31点を選んでくださった、あなたへ。
彼女たちを見つけてくれて、ありがとう。
あのシリーズは、私の好きなものを、好きなように描いたものです。 広告向けの元気も、一目で伝わる用件もない、 仕草の一瞬だけを描いた、静かな絵たちです。
正直に言うと、ああいう絵は売れないのだと、 私はこの連載で何度も結論づけてきました。
その結論を、あなたは一日で、31回訂正してくれました。
彼女たちは、良い方の元へ行けたと、私は勝手に思っています。 そして、佇む女性たちの通りに向かって、 今では少し胸を張って、こう言えるようになりました。
「君たちの一人も、いつか通りかかるかもしれない」
もし万一、この文章があなたの目に留まる日が来たら—— 名乗らなくて構いません。連絡もいりません。 ただ、残りの4点が今も待っていることだけ、 そっとお伝えしておきます。
15,000人の町の、町内会長より。
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